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東京高等裁判所 昭和31年(く)30号 決定

本籍 神奈川県○○郡○村○○○○○○番地

住居 横浜市○区○○○町○丁目○○○番地

少年 H・ホーム内学生 村田吉房(仮名) 昭和十六年十一月二十八日生

抗告人 少年

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、記録に綴られてある少年作成の抗告申立書に抗告の趣旨として記載せられたとおりであるからこれを引用する。

ところで、本件少年保護事件記録、少年調査記録及び添付の申立人外一名に対する窃盗少年保護事件記録を調べてみると、少年がいうところの県立音楽堂で便所のペタルを盗んだ事件とは、H・ホーム園長Tが原裁判所調査官補に対して少年在園中の非行として述べたところであるが、原審は少年の弁解を斥けてこの事実を認定したものでなく、またこれを少年のため不利益に採り上げたものではない。つぎに、少年の保護監督について、実父Oは同調査官補に対して、家内のことなどで家の中は治つていなくけつしてよい状態ではない、自分としては吉房(少年)をこの施設に収容して立派な人間として頂きたいと思う旨陳述し、原審判廷において調査官に申上げたとおりであるといつているのであつて、少年を自宅に引取りたいとは申していないのみならず、少年自身も調査官補には実家の両親の許に帰されることは大嫌ですと述べているのであるから、原審が少年の実家に帰る希望をむげに斥けたものではない。さらに共犯者A及びBについては、原裁判所少年部の他の係にいずれも虞犯少年事件として係属しているのであつて、申立人少年の担当裁判官が身柄に関して、とくに右両少年と差別的措置をとつたものではなく、また右園長が申立人を除外して、とくに右両少年をかばつた跡は見出だされない。なお原審判の保護処分の決定言渡しに際しては、原審裁判官が少年審判規則第三五条第一項に則つて、少年及び保護者に対して保護処分の趣旨を懇切に説明し、これを充分に理解させるように努めたものとみられるし、初等少年院においては、中学校で必要とする教科を授け、その教科を終了すればその証明書を発行し、これは中学校の卒業証書と同一の効力を有するものであつて、これについても詳細な説明がなされたものとみられるので、原保護処分の決定には、法令の違反または事実誤認のかどはない。すすんで少年を初等少年院に送致した原決定が著しく不当な処分であるか否かについて検討するも、少年は一〇才時(昭和二六年)頃から素行不良となり、家庭からの金銭持出費消、他人の財物窃取等の非行が常癖化し、中学二年生の時V児童相談所に通告せられて昭和三〇年七月二八日から肩書の養護施設H・ホームに収容されたが、保護者(園長)の正当な監督に服さず、無断外出、園外における窃盗行為など反則や非行を繰り返えし、同年一二月には同園児Aと共謀して横浜市R百貨店等で万引窃盗を働いて横浜家庭裁判所に送致され、審判不開始の決定を受けて同施設に戻されたのにもかかわらず、その非行性は除去されることなく、百貨店等の万引などを繰り返して素行修らず、ついに、昭和三一年四月六日同園内に発生した失火事件に関与して同月一〇日P警察署より原裁判所に虞犯少年事件として送致せられたものであつて、すなわち少年には自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があつて、その性格及び環境に照らして将来罪を犯す虞あるものというべく、しかもその生育歴、家庭の環境及び鑑別の結果等を綜合すると、少年に対しては収容保護による矯正教育を授くべきものであり、その収容施設については、これまでの養護施設における成績にかんがみ、少年院に送致して、社会生活に適応させるため、その自覚に訴え紀律ある生活のもとに、教科並びに職業の補導及び適当な訓練による矯正教育を授ける必要があると認められるので、原裁判所の保護処分の決定はまことに正当であつて、申立人のいうところは、ひつきよう原裁判所の措置に対する誤解、無理解又はひがみによる不平に基づくものに過ぎないのであつて、いずれも原決定を非難する論拠として採用するに由なきものである。それで抗告は理由なきものである。

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条に則つて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中野保雄 裁判官 尾後貫荘太郎 裁判官 堀真道)

別紙(原審の保護処分決定)

少年 村田吉房(仮名) 昭和十六年十一月二十八日生 職業 中学生

本籍 神奈川県○○○郡○村○○○○○○

住居 横浜市○区○○○町○の○○○ H・ホーム内

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

事実

少年は昭和三〇年七月二八日から横浜市○区○○○町○の○○○番地養護施設H・ホームに収容されているものであるが保護者(園長)の正当な監督に服さず、その後無断外出、百貨店よりの万引などを繰返し、素行の修らないもので、その性格および環境に照らして将来罪を犯す虞れのあるものである。

適条

主文につき少年法第二四条第一項第三号

事実につき少年法第三条第一項第三号

問題点

一、少年は一〇才時(昭和二六年)頃より素行不良となり非行が習癖化している。

二、社会性および反省心に乏しい。

三、家庭環境が不良である。

仍て少年院における矯正教育の必要があるものと認め主文のとおり決定する。

昭和三十一年五月七日

横浜家庭裁判所

裁判官 樋渡源蔵

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